緑の悪霊 第15話


ルルーシュはしばらく考えこんだ後、先程までの警戒と拒絶を消し去り、親愛を込めた笑みをジノに向けた。
人に対し好印象を与える目的の笑みにジノは喜色を浮かべながら顔を赤らめた。
反応は上々だなと、ルルーシュはますます笑みを深めた。
今は自分に意識を向けさせ、二人きりになる状況を作る必要があるのだ。
そんな無言のやり取りを見て、スザクは嫌な予感しかしなかった。
何を考えているルルーシュ。
馬鹿なことだけはするなよ。
と、内心冷や汗を流した。
この幼馴染は時折予想外の行動をとる事がある。
計算しつくされた行動なのだろうが、時々天然ドジっ子属性を発揮してくれるのだ。
特に、恋愛感情に対して超はつくほど鈍感なため、それにまつわる事ではルルーシュ曰くイレギュラーが多発する。スザクやナナリーから見れば、超鈍感なルルーシュにとってはイレギュラーでも、普通に考えればそれらはイレギュラーでも何でも無く当然の結果だった。むしろ超鈍感天然スキルを発揮した結果、ありえない勘違いをした状態でとるルルーシュの行動こそがイレギュラーなのだ。
そして、勘違いによるイレギュラーが起きるとスザクの勘が訴えていた。

「ヴァインベルグ卿」
「ジノと呼んでくれないか」
「ですが、皇帝の騎士相手に」
「ジノと、呼んでほしいんだ。私はルルーシュと呼ばせてもらう」
「わかりました。ではジノ、これからスザクと模擬戦をされるというお話ですが」
「いや、もう模擬戦をするつもりはないよ。今夜はルルーシュと共に過ごしたいと思っている」

甘さの滲んだその声に、スザクはぴきりと表情をこわばらせた。
こいつ、俺の目の前で、俺の嫁に対して何言ってるんだ。
今ここで沈めてやろうか?
表面こそは強張った笑顔だが、そんな感情をジノにぶつけていると、ジノは勝ち誇ったような笑みをスザクに向けた。
ジノから見れば、こんな美しい笑みを向けてくるルルーシュは完全に脈ありだ。イレブンとブリタニアの貴族、自分はラウンズでスザクは一兵卒。地位でも自分に負けはないという自信があるため、積極的にルルーシュにアプローチをした。

「私と、今夜、ですか?」

小首を傾げ、不思議そうに尋ねるルルーシュに、ジノは笑みを深くした。

「ああ、ルルーシュと今夜二人きりで」

色を含んだ声で、ジノはルルーシュを誘った。
・・・1つ下という事は16だよなこいつ。
手慣れすぎてるだろう。そんな尻の軽い男、ルルーシュの好みじゃないんだよ!

「そうですか・・・」

困惑したような声で返すルルーシュに、スザクは心の中で頭を抱えた。
絶対今夜共に過ごすの意味、解ってないだろルルーシュ!
男同士だからなおさらそっちの意味だとは思ってないよね!
お茶を飲みながら雑談とか、チェスをって話じゃないんだよ!
このままでは受けてしまいそうなルルーシュに、スザクは体ごと視線を向けた。

「ルルーシュ、今日は・・・」

僕がいるのに、とルルーシュが弱い上目づかいに涙目、眉尻を下げた顔でいうと、ルルーシュはナナリーとスザクにだけ向ける柔らかな笑みを向けた。
今までとはベクトルの違うその美しい笑みに、ジノが息をのんだのが解る。
作り物の笑みと、愛情のこもった笑みの差を見て、自分が愛情の対象外なんだって理解しろと、スザクは優越感に浸りながらちらりとジノに視線を向けた。
その差に嫌でも気付かされたジノは、ルルーシュに気づかれないようにスザクをぎろりと睨む。

「だがスザク、こんな夜遅くに模擬戦など危ないだろう?それなら俺が今夜ジノの相手をした方がいいじゃないか」

ルルーシュの声は甘く柔らかく、愛情がたっぷりと籠められてた。
相手、という言葉の意味は恐らくジノとスザクが考えているものとは違うだろう。だが、ルルーシュはスザクの安全のために、ジノの暇つぶしに付き合うつもりでいることだけはわかった。
ルルーシュの言葉でジノは嬉しそうに笑い、駄目だ、それだけは認められないと、スザクは冷や汗を流した。ルルーシュにその気がなくても、相手はその気だ。身体を鍛え上げている軍人、しかもラウンズに襲われればひとたまりもないだろう。

「別に危なくないよ。大丈夫、夜戦の練習にもなるから」

スザクも普段とは違い、甘く柔らかく、そして甘えるような口調でルルーシュに縋るような目を向けた。

「駄目だスザク。お前がKMFの操縦をするだけでも心配だというのに、こんな暗くて視界も効かない時間の、ラウンズ相手の模擬戦で万が一お前に何かあったらと考えると俺は・・・」

心底心配なんだとルルーシュは悲壮な顔でスザクを見た。しかも、上目づかいに涙目。先ほどのスザクと似ている表情ではあるが、破壊力が違いすぎた。
それは何度もこの手を使うスザクと、初めて使ったルルーシュの差かもしれないが。
うわっ、何その顔。
思わずスザクは息をのみ、頬を染めた。
スザクは体力馬鹿だが、ルルーシュに関しては恐ろしいほど記憶力はいい。
写真に残すのは無理なので、記憶にしっかりと刻み込む。
見つめ合う二人というこの状態に眉を寄せ、ごほんと咳払いをしたのはジノ。
ルルーシュは頬を染め、すみませんとジノに向き直った。
もう少し堪能していたかったのにと、スザクは内心舌打ちをしつつも、羨ましいだろう?お前には無理だよ。という意味も込めてにこやかな笑みでジノを見た。
それが気に入らないと、ジノはピクリと眉を寄せたが、年下とはいえ流石ラウンズ。 振る舞いからもおそらく貴族だろう男は、すぐに居住まいを正すと、ルルーシュを見つめにっこりほほ笑んだ。

「では、承諾していただけると受け取っても?」

スザクとルルーシュがもしそういう関係だったとしても、もう関係はない。やり方は汚いと思うが、こんな気持は初めてなのだ。スザクを守るためその身を差し出そうとしている事が解っていても、引くつもりはない。一度関係を持ってしまえば、ルルーシュの意志はどうあれ、その時点で彼は自分のものだ。手放すつもりはない。ジノは素早く思考を切り替えると、ルルーシュに是非を尋ねた。

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